キーパーソンインタビュー

ローカルマーケティング力と流通力を強みに
IPの価値を最大限に生かした販売戦略を進めていく

株式会社バンダイナムコエンターテインメント 取締役 辻 雅明

株式会社バンダイナムコエンターテインメント
取締役 辻 雅明

1984年9月
(株)バンダイ入社
1993年11月
BANDAI U.K. LTD. 代表取締役社長
1998年1月
BANDAI AMERICA INCORPORATED 代表取締役社長
2003年6月
バンダイ取締役  グループ海外政策担当
2008年7月
BANDAI S.A. 代表取締役社長
NAMCO BANDAI Games Europe S.A.S. 取締役
2009年4月
(株)バンダイナムコホールディングス 執行役員
2010年4月
BANDAI S.A. 代表取締役会長
2010年12月
NAMCO BANDAI Games Europe S.A.S. 代表取締役会長
NAMCO BANDAI Partners S.A.S. 代表取締役会長
2012年1月
NAMCO Holdings UK LTD.代表取締役社長
2012年3月
NAMCO BANDAI Games America Inc.代表取締役社長
2012年4月
(株)バンダイナムコゲームス  取締役  海外担当
2014年4月
Bandai Namco Games America Inc.代表取締役社長
2016年4月
(株)バンダイナムコエンターテインメント取締役
グローバル事業推進室担当

※社名は当該年度時のものにて記載

ネットワークエンターテインメント事業の海外展開が好調に推移しており、なかでも「ドラゴンボール」や「NARUTO−ナルト−」シリーズなど、IPを活用した家庭用ゲームソフトの販売が貢献しています。今回は、㈱バンダイナムコエンターテインメントの取締役 海外担当と、欧米拠点5社で代表取締役を務める辻雅明に、欧米を中心とした海外の状況や展望、期待の商品などについて聞きました。

これまでの経歴と現在の担当範囲を教えてください。

辻:1984年にバンダイに中途入社して以来、ずっと海外事業を担当してきました。BANDAI AMERICA INC.時代には、現在欧米地域のトイホビーの主力IPとなっている「Power Rangers」の立ち上げに携わりました。その後イギリスに異動し、BANDAI U.K. LTD.の代表取締役社長を勤めました。当時40歳だったのですが、初めて社長に就任したということもあり、この時期の経験はとても印象に残っています。
 その後も欧米を中心にトイホビーや家庭用ゲームソフトなどの事業に携わり、現在はバンダイナムコエンターテインメントの取締役 海外担当と、Bandai Namco Holdings UK LTD.、Bandai Namco Entertainment America Inc.など5社の代表取締役を兼務し、ネットワークエンターテインメント事業の海外展開と欧州地域の統括を行っています。

過去に家庭用ゲームソフトの海外事業が苦戦しましたが、改善した要因は?

辻:2009年度に業績面でも苦戦しましたが、経営に関する基本的な改善策を着実に実行していったことが良かったのだと思います。自分たちの強みを生かせる商売の仕方をする、規模に見合った投資を行う、コミュニケーションを活発にする、そしてこれらを着実に推進できる組織体制にするといった基本的なことから徹底して改めていきました。守りだけでは面白くないということで、一方では、次の成長に向けて何をすべきか話し合いました。多額な開発費をかけた大型ソフトを大規模なプロモーションで宣伝し販売する海外の競合会社がいる中で、私どもの商品にはIPという強力な武器があります。そのIPの魅力を伝えるために現地でのマーケティングを強化していきました。具体的には、テレビを使った不特定多数に向けてのマーケティングから、イベントやウェブサイトを介してIPファンのユーザーと直接コミュニケーションをとる手法に変えていきました。これらの取り組みの結果、「ドラゴンボール ゼノバース」や「DARK SOULS」シリーズなどのタイトル自体の魅力と、ターゲットを絞って戦略を立てピンポイントに攻めていったマーケティングが相乗効果を発揮し大ヒットとなり、家庭用ゲーム事業の改善につながったのだと思います。

自社販売網の強みとは?

辻:IP軸戦略によって他社との差別化を図ることができる点に加えて、自社販売網を持っていることが大きな強みになっています。従来のパッケージ販売に代わってダウンロード販売が勢力を伸ばしている中、ゲーム業界では各地域の拠点を閉鎖する動きもあるのですが、パッケージがなくなることはないと考えています。全世界をカバーできる私どもの販売網の強さ、現地人員による各地域の特性に合ったローカルマーケティング力を評価いただき、他社の有力なタイトルの販売を数多くお任せいただけるようになっています。欧米での家庭用ゲームソフトの好調には、複数の他社ヒットタイトルの販売を担当したことも貢献しています。

海外でのネットワークコンテンツ展開も拡大しています。

辻:家庭用ゲームソフトで培ったローカルマーケティング力を生かし、日本から全世界に配信しているゲームアプリケーション「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」などネットワークコンテンツのマーケティングにも携わっています。ネットワークコンテンツについては、日本のIPタイトルだけでなく海外IPタイトルもチャンスがあると思います。日本発タイトルのサポートなどを通じ、欧米発のネットワークコンテンツ展開に向けたノウハウの蓄積を行います。新しいことへの挑戦は、社員の成長にもつながります。社員達に新しい活躍の場を与えることで人材育成にもつなげていきたいと思います。

地域特性を理解した海外展開 事業規模のさらなる拡大を図る

今後、海外で期待の商品は?

辻:「DARK SOULSⅢ」は、既に海外で350万本以上を出荷していますが、海外では人気タイトルは息長く売れ続ける特徴がありますので、引き続き注目いただきたいと思います。また、欧米を中心に販売が好調だった家庭用ゲームソフト「ドラゴンボールゼノバース」の第2弾を、今年秋よりワールドワイドで発売する予定です。前作のコンセプトを踏襲しつつもパワーアップした内容となっており、期待しています。そのほか、世界大会が開かれるなど海外での人気も高いアーケード用ゲーム機「鉄拳」シリーズの新タイトルとして、家庭用ゲーム「鉄拳7」の発売も来春に予定しています。

ダークソウル3

これからの展望は?

辻:欧米のネットワークエンターテインメント事業については、前中期計画では建て直しを、現中期計画は成長に向けた基盤の整備を行っています。基盤が整ってきたこれからは、今までとはもっと違う展開を視野に入れています。まずはしっかりと地域に根付いた販売・マーケティング戦略を立て、事業規模のさらなる拡大を目指します。それぞれの地域によって、言語や法律はもちろんのこと、趣味嗜好もさまざまです。一部で成功した戦略が他の地域でも通用するとは限りません。例えば、欧州でも、他地域に比べてフランスやスペインなどの地域のほうが日本IPが受け入れられやすいなど嗜好の違いがあります。販売方法でも、ダウンロード販売の売上比率が5割近い地域があれば、パッケージ販売が主流でダウンロード販売の売上は1割にも届かない地域もあります。このような地域差を理解した上で、地域特性に応じた体制を整え、さらにマーケティングに強い会社を目指したいと思います。また、事業規模の拡大のためには、新しい作品の開発や獲得に向けた投資を行い、自主独立で事業運営できる仕組みを作っていくことが必要です。世の中の流れが全体的に加速していることに加えて、エンターテインメント事業はとても変化の激しい業界です。ゲームというコンテンツにはこれからも大きな可能性がありますが、伝達方法やプラットフォームは変化していきます。ビジネスモデルにも固定観念を持たず、柔軟に対応していくつもりです。

座右の銘を教えてください。

辻:「小事は情を以て処し、大事は理を以て決す」です。日常的な小さな問題については、人情をもって対処し、大きな決断をする際には、理論的な判断を優先させなくてはならないという意味です。欧米の人たちはビジネスライクで合理的というイメージがあるかもしれませんが、実は人とのつながりを非常に大切にしています。私も社員の希望はできる限り聞きながら、会社の経営などの重要な決断のときは感情に流されない強さ、冷静さをもって対処し、海外の基盤をさらに強固なものにしていきたいと思います。

※このインタビューは、2016年9月発行のニュースレター「バンダイナムコニュース」の一部を再編集したものです。