Special座談会
米良 美一さんと考えるサステナビリティ
バンダイナムコグループとダイバーシティ

「尊重しあえる職場環境の実現」を目指して、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に取り組むバンダイナムコグループ。ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様性を受け入れながら、それぞれの違いをより活かして活躍してもらうため、障壁を取り除いていくことです。
「先天性骨形成不全症」という難病を持ち、高校まで特別支援学校で育った声楽家で歌手の米良 美一さん。両親と離れた寂しい生活、いじめ、友人の死など幼少のころから様々な苦難がありましたが、歌と出合い、その後の努力で才能が開花されました。自らの力と出会ったかけがえのない人たちの助けで道を切り開いてきた米良さんにとって、バンダイナムコグループの取り組みはどう映るのでしょうか。
バンダイナムコグループのチーフ・サステナビリティ・オフィサーを務める浅古 有寿、(株)バンダイ取締役の藤田 訓子、バンダイナムコグループのサステナビリティ推進室ゼネラルマネージャーの露木 項治と広くダイバーシティについて語り合いました。

ゲストスピーカー
声楽家・歌手
米良 美一さん
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バンダイナムコホールディングス取締役 (チーフサステナビリティオフィサー) 浅古 有寿 |
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バンダイ取締役 藤田 訓子 |
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バンダイナムコホールディングス サステナビリティ推進室ゼネラルマネージャー 露木 項治 |
ひとつの個性、1人の才能には限界がある
「同魂異才」で、笑顔を未来につなぐ
日本企業は欧米に後れをとっている企業が多いのではないかと思っていましたが、バンダイナムコさんは、素晴らしい目標と理念を掲げて、一歩踏み出し実現に向かっておられるんですね。互いに尊重しあうことは、どんなジャンルでも大切です。目の前にいる相手を否定することは簡単ですよね。でも尊重して、相手の立場に立って、自分の思考を変えてみる。観点を変えて歩み寄ることは、素晴らしい社会への近道だと思います。
私たちのグループはサステナビリティのキーワードとして「笑顔を未来へつなぐ」を掲げています。社員だけでなく、サプライヤーをはじめ、あらゆるステークホルダーとともに『笑顔』を未来につないでいくことを追求していきたいと考えています。
『笑顔』はどんなに苦しくても大切ですね、フランスの哲学者アランの幸福論の中で、『笑顔』の大切さを説いています。その中で私の心をとらえたのは「笑顔はまわりであなたのことを見ている人への最低限のマナーである。人が楽しいから笑うのは当然のこと。でも笑えなくてもまわりの人の気持ちを落ち込ませたり不愉快にさせたりしないために、微笑みを絶やさない努力をすべき」という内容です。私自身、いつも微笑みを浮かべるようになったら、まわりに人が寄ってくるようになって、物事の流れが変わってきました。笑顔のために自分は何ができるんだろう、そう考えた時に「そうだ、笑顔の種をまいて進んでいこう!」と思いました。どんなにつらいことや大変なことがあっても、笑顔の種をまいて進んでいく、そんな毎日を暮らしていければと思います。
「笑顔の種をまいて進む」、すごくいい言葉ですね!『笑顔』は当社グループが大切にしているキーワードで、私自身も意識するようにしています。では、米良さんはダイバーシティに対して企業はどうあるべきだとお考えですか。当社グループは人材戦略に「多様な人材の育成」を掲げていて、様々な才能、個性、価値観を持つ多様な人材が生き生きと活躍することができる「同魂異才」の企業集団でありたいと考えています。
「同魂異才」という言葉は目からうろこです。素晴らしい!


人が1人でできることには限界があります。得意なこと、苦手なことは人それぞれ異なります。そのことをいい意味で利用しあって、ひとつの事業を成功させる。こうすることで良い化学反応が起きるんだと思います。
「同魂異才」は以前からグループの重要なキーワードとして根付いています。尊重しあうことでイノベーションが生まれ、今の多彩な事業につながっています。
尊重しあうことは大切です。どんな組織でも一人ひとり考え方が違えば、報われる人もいれば報われない人もいます。でもみんなが尊重しあい、心を寄り添わせながら、同じ目標に向かって頑張る。バンダイナムコさんはそういう方々の集まりなのだと思います。
簡単なことではないですよね。お互いを理解するには時間が必要です。ただ理解できないからとあきらめずに、継続していくことが大切だと考えています。
目指す場所を皆で理解しあえているかですね。パーパス※1に向かって個性がぶつかりあうことがすごく大切なことだと思います。
そうですね。そして相手を認めると同時に、自分も認めてあげてください。ダイバーシティとは、いろいろな人がいろいろなものを背負いながら、それぞれの人生でそれぞれの花を咲かせるために生きている人を認め合うことです。だから誰のことも否定することなく、自分とも向き合ってください。真の自信と自尊心を持つために、改善すべき点は改善しながら生きていく。そうやって生きている一人ひとりが集まって社会や会社ができるのです。
パーパス 企業の経営理念として自社の存在意義を明確化し、どのように社会に貢献していくかを明文化すること。
バンダイナムコグループのパーパスは以下をご覧ください。
https://www.bandainamco.co.jp/about/purpose.html


人は知らないもの、理解できないものを恐れる
次に女性の社会進出についてお話をうかがいたいと思います。まず藤田さんはどう考えますか?
バンダイナムコグループの女性の管理職比率は21.2%、年々伸びています。ただ、女性を優遇する話ではなく、男性・女性問わず活躍できる環境をつくることが目的です。そうすると、女性はライフイベントの影響を大きく受けるので、バランスは偏りがちです。男性の育休も同じですが、制度はあることで終わらず、受け入れられる職場環境づくりが重要なのに、まだ遅れているのが実態です。
それに気づかれていることが“希望”だと思います。ジェンダーの問題に限らず、単なる知識ではなく、実践しようという姿勢が大事です。その意識を持つことがバンダイナムコさんの商品やサービスにも活かされていくだろうし、すでに活かされていると思います。
社員一人ひとりにどうやったらダイバーシティが伝わるかと考えた時に米良さんのお話をうかがいたいと思いました。いろいろなご苦労をされて、今もいろいろな活動をなさっていますから。
私自身、障がいだけではなく、今日のテーマであるダイバーシティにかかわる「障壁」をたくさん持っています。九州男児的なマッチョな考えもあれば、“夢見る夢子ちゃん”のような一面もあって、どこに所属するのかと混乱の中で生きてきました。今はLGBTQ※2と細分化され、それぞれの存在意義を個性として認めようという流れにありますが、社会全体では“そうではない人”の意識が追いついてきていません。
ダイバーシティ、つまり多様性の言葉にある通り、みんな違って当たり前と認識していても、一見自分と違うタイプに思える人には壁をつくってしまい、どう接していいかわからないという人もいるということでしょうか。
はい、人は自分が理解できる範疇の人に対しては恐怖心が起きないけど、未知なる相手や、たとえば性的嗜好や考え方、思想が違うと恐怖心が大きくなるんです。でもそれは人と付き合ううえで一番もったいないことだと思います。「もったいない」は世界共通語になっていますが、新しく出会った人に対して恐怖心にエネルギーを使わず、我慢するのでもなく、まず向き合ってみること。考え方に耳を傾けてみる。そういうことを試みる以外にないかな。
同じエネルギーを使うならマイナスではなく、プラス方向に使う、ということですか。
そうです。ネガティブな方向にエネルギーを注ぐのではなく、初体験から何かが生まれるかもしれないでしょう。私たち人間は人生においてオギャーと生まれた時から最期の日を迎えるまで誰もがチャレンジャーなのです。
LGBTQ レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クイアまたはクエスチョニングの頭文字をとった性的少数者を包括的に表す言葉。ダイバーシティの多様性の中にはジェンダーや年齢、人種、国籍、障がいの有無と合わせて、LGBTQが含まれる。


誰かが誰かの豊かさの犠牲になる必要はない
ダイバーシティの第一歩は「笑顔のコミュニケーション」
ダイバーシティの本質は、自分自身と向き合うことかもしれません。最後に米良さんからメッセージをいただければと思います。
社員の皆さんはひとくくりではない、一人ひとりの魂が寄り合って組織ができています。一人ひとりが幸せでなければおかしいんです。みんなが認め合って、尊重されて、そしてみんなが自分のことを誇りに思って、この会社の一員でいることが本当に幸せでありがたいことだと思えたら、ますます会社の運気が上がって、ご褒美がドバっときますよ。誰かが誰かの豊かさの犠牲になる時代はとっくの昔に終わって、これからは不可能を可能にできる、そういう時代に人類はきているのではないかと思います。
どうしても人は自分自身に甘くなってしまい、ついつい忘れてしまう部分があります。だからこそ大切なことは意識していかないと忘れがちですよね。社員一人ひとり、みんな十人十色でいいということ、人数分の個性があってよくて、そのためには「もったいない」にならないように笑顔でコミュニケーションをとっていく。まずその第一歩から私たちのダイバーシティが始まるのでしょうか。
ある意味、理想論かもしれませんが、人は何かを宣言したことで、自分自身がやらなければいけない責任を背負います。でもそれが自分自身を、成長させていただけるきっかけにもなるんです。言霊は結局、自分に返ってきますから。
まずは自分自身が声に出して宣言する、それが大事ということですね。では私も「笑顔でコミュニケーション」を宣言させていただきます!米良さん、ありがとうございました!


Profile
米良 美一さん
1971年、宮崎県生まれ。声楽家、歌手。生まれながらに先天性骨形成不全症という難病と闘いながら、歌の世界で才能を光らせる。音楽で生きることを決意し、特別支援学校から洗足学園音楽大学に入学。卒業後、アムステルダム音楽院にオランダ政府給費留学をした。世界的にも評価されるカウンターテナー歌手として活躍する。1997年、スタジオジブリの映画『もののけ姫』の主題歌を歌ったことで広く一般にも知られる存在に。しかし2015年にくも膜下出血を発症し、一時は復帰が危ぶまれたが、またステージに立ちたいという一途な気持ちでリハビリに励み、奇跡的に復活を果たした。
現在、多くの企業がダイバーシティに取り組んでおり、私たちバンダイナムコグループも取り組むべきマテリアリティ(重要課題)として「尊重しあえる職場環境の実現」を掲げています。米良さんは日本企業におけるダイバーシティをどうお考えですか。