EN MENU

GUNDAM OPEN INNOVATIONINTERVIEWインタビュー

2021年9月10日

ガンダム愛が生み出す無限の力
~「動くガンダム」参加者から寄せられたGUNDAM OPEN INNOVATIONへの期待感

ガンダム愛が生み出す無限の力 ~「動くガンダム」参加者から寄せられたGUNDAM OPEN INNOVATIONへの期待感

バンダイナムコグループが進める「GUNDAM OPEN INNOVATION」。そこでは企業や団体を超えた「共創」がテーマに掲げられています。チーフガンダムオフィサーをつとめる藤原孝史による司会のもと、「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」で稼働中の「動く『機動戦士ガンダム』」プロジェクトに参加した3名のクリエイターに、「共創」の意味や本プロジェクトへの期待感について語ってもらいました。

▶インタビュー動画はコチラ

PROFILE
  • 藤原孝史

    藤原孝史

    バンダイナムコエンターテインメント常務取締役チーフガンダムオフィサー(CGO)。グループ全体におけるガンダム関連事業の統括責任者をつとめる。

  • 石井啓範

    石井啓範

    ガンダム GLOBAL CHALLENGEテクニカルディレクター。建設機械業界出身で、「動く『機動戦士ガンダム』」プロジェクトでは全体の統括とメカの設計などを担当した。一般社団法人ガンダムGLOBAL CHALLENGE所属。

  • 吉崎航

    吉崎航

    ガンダム GLOBAL CHALLENGEシステムディレクター。「動く『機動戦士ガンダム』」プロジェクトでは回路の設計とソフトウェアの開発を担当した。アスラテック所属。

  • 川原正穀

    川原正穀

    ガンダム GLOBAL CHALLENGクリエイティブディレクター。「動く『機動戦士ガンダム』」プロジェクトでは全体のデザインを担当した。乃村工藝社所属。

質問案作成・記事構成:小野憲史

「ガンダム好き」のメンバーが集まったからこそ、ガンダムを動かせた

まずはGUNDAM OPEN INNOVATIONの簡単な説明をお願いします。そのうえで、横浜の「動く『機動戦士ガンダム』」プロジェクトとの関係性について、教えてください。

藤原:バンダイナムコグループでは新しく、GUNDAM OPEN INNOVATION(以下、GOI)という取り組みをスタートさせました。これはガンダムの世界観である「宇宙世紀」に登場する技術や要素に関する研究を、バンダイナムコグループと共に行っていただき、成果を社会実装していくことで、さまざまな社会課題の解決につなげていくという取り組みです。そのための企画案を広く募集しています。

GOIの一番の目的は、こうした取り組みを通して、ガンダムというキャラクターの魅力に向き合い、より広く世界に発信していくことです。横浜の「動く『機動戦士ガンダム』プロジェクト(以下、「動くガンダム」)」は、その象徴的な出来事だと思っています。皆さん、ガンダムが大好きいうことで、「動くガンダム」に対しても非常にアグレッシブなチャレンジをしていただきました。

これにより、非常に新しいエンターテイメントとして、新しい価値を、お客様に提示できたのではないかと思っています。皆さんは「動くガンダム」に参加されて、いかがでしたか? きっとさまざまなご苦労があったと思いますが……。
石井:「動くガンダム」では、開発全体の取りまとめを行いつつ、メカの設計を中心に担当させていただきました。実物大のガンダムを動かすうえで、デザインと動きをどう両立させるかが最大の課題でした。ガンダムらしさを維持しつつ、どこまでアレンジできるか、川原さんと一緒に話をしながら、決めていきました。川原さんの方でデザインを変えてもらったり、僕の方でメカをいろいろと調整したり。
川原:そうですよね。1年半ぐらいじゃないですかね。
石井:ずっとキャッチボールしながら進めていったところがあります。一例をあげると、「動くガンダム」では足首の関節を動かすために、すねの中央にモーターを入れています。ただ、ふつうにモーターとギアを配置すると、すねからモーターがはみ出てしまうんですね。川原さんから「カバーをつけますか?」と提案もいただきましたが、それだとガンダムらしさが失われてしまいます。最終的にすねのフレームの設計を工夫して、中に納めることができました。

また、腹部のフレームは、コクピットが入る空間を考慮した設計にしました。「動くガンダム」では、人を乗せて動かさないことが、最初の段階で決まっていました。そのためコクピット空間は不要なんですが、ガンダムは「人が乗って操縦する」ところが一番のアイデンティティだと思っていました。そこで最初からフレームの設計を工夫しました。
藤原:なるほど、そういった事情があったんですね。吉崎さんはいかがでしたか?
吉崎:私がかかわったのはシステム全体の設計とソフトウェアの開発部分です。人間でいうところの運動神経に当たるところですね。また、今回のプロジェクトの特徴として、デザインが終わる前のタイミングから、どんなふうにガンダムを動かしたらカッコよく見えるかについて、事前シミュレーションをしていました。これが序盤の主な仕事でした。

ただ、18メートルのロボットを動かすというのは、前例のない試みでした。お手本になるものがないんですよね。そのためアミューズメント施設に使われているシステムと、イベントなどで使われるショウコントロールのシステムを参考にしました。また、個人でも4メートルくらいのサイズのロボットのシステムを組んでいました。これらを組み合わせれば、ショウとして成り立つような、安定したロボットのシステムが組めるのではないか……これが基本的な考え方でした。
藤原:ガンダムの動作について、めざしたゴールはありましたか?
吉崎:人間との関わり合いが非常に重要だと思っていました。これまでの立像は、下から見上げるものでしたが、今回は見学デッキから見下ろしたり、ガンダムがしゃがんでるところを近くで見たり、いろいろな角度から見ていただく計画でした。そんなふうに、目の前でガンダムが動くと、こんな感じなんだっていう体験をしっかりと届けることが大切だと思っていました。そのため、可動範囲の広さや、人間らしい動きについて掘り下げました。
藤原:川原さんは一番早くからかかわっていただいていますよね。
川原:はい、実はガンダム30周年でお台場の潮風公園に作られた、実物大のガンダム「GREEN TOKYO ガンダムプロジェクト『1/1ガンダム立像』(以下、潮風ガンダム」)から参加させていただいています。潮風ガンダムは彫刻みたいなもので、立ち姿の美しさや造形的な美しさ、格好良さを追求すれば良かったんですが、今回は実際に動かすと言うことで、さまざまな要因を組み合わせる必要がありました。当然、自分一人の力ではできませんでしたし、いったいプロジェクトとして、ちゃんと成立するんだろうかと心配していました。途中から石井さんと吉崎さんに入っていただいて、なんとか実現できたという感じです。
藤原:まさに「動くガンダム」は、バンダイナムコグループを核としつつ、多くの方の力を借りて実現させた、初めてのケースになりました。自分たちだけではできないことでも、多くの方との「共創」を通して、ものすごいことができるという。そうした、ある種の自信みたいなものがもてたことが、グループとしても、すごく大きかったと思ってます。

皆さんが『機動戦士ガンダム』に接したきっかけと、現在のお仕事との関係について教えてください。

石井:私のきっかけはガンプラでした。1974年生まれで、1979年のガンダムの本放送の時は、あまり見た記憶がありませんでした。その後、小学校低学年の頃に最初のガンプラブームがおきて、そのタイミングで再放送を見てファンになりました。ただ、最初はモビルスーツのかっこよさがきっけでしたね。正直ストーリーは、小学校低学年には、ちょっと難しいじゃないですか。ストーリーについては中学生の時に映画の三部作を見て、改めておもしろいと思ったくらいです。

その後、しだいにガンダムみたいな大きなロボットを作ってみたいという思いがつのり、大学では工学系の学部に進んで、ロボット研究を始めました。研究室では1.8メートルくらいのヒト型ロボットが歩く研究をしていまして、まわりもガンダムが作りたい学生ばかりでしたね。
藤原:他のロボットとガンダムの大きな違いはどこでしたか?
石井:ミリタリーとしてのロボットのリアリティが、それまでのアニメとは大きく違いましたよね。ガンダムには赤・青・黄という、スーパーロボット的な、トリコロールの意匠が残っていましたが、ジオンのモビルスーツは違いました。ザクをはじめ、量産型がたくさんあり、その中にシャア専用みたいな、エースパイロット向けの機体があるという、そうした設定にひかれました。
吉崎:私は生まれが1985年で、『機動戦士Zガンダム』の放映年なんです。そのためガンダムの魅力といえば、懐の広さなんですね。はじめてリアルタイムで見たのが『機動戦士Vガンダム』で、次に見たのが『機動武闘伝Gガンダム』。これを小学1~2年生で立ち会えたのが大きくて。ガンダムの振れ幅が一番大きかった時期じゃないですか。なるほど、ガンダムってすごいなと思いましたね。

並行して『SDガンダム』シリーズや、『機動戦士ガンダムF91』のプラモデルなども作って楽しんでいました。そんなふうに、いろいろな切り口でガンダムにハマっていきました。そこから次第に「ロボットを動かす」ことに興味が移っていって、中にモーターを入れるなどの改造を進めていきました。ズゴックのプラモデルを独自に動かして、雑誌の取り上げてもらったこともありましたね。
藤原:ロボットを動かすことに興味があったんですね。
吉崎:そうですね。中学の自由研究で、巨大ロボットの作り方をテーマにしたこともあります。計算の結果、エンジンと油圧システムがあれば動かせるだろうと。ただ、それを制御するためのソフトウェアが足りない。ソフトウェアの技術開発が進めば、巨大ロボットが歩けるはずだと結論づけました。ソフトウェアに集中して取り組むようになったのは、それがきっかけです。そういう意味では、今の仕事のきっかけはガンダムでしたね。
藤原:川原さんはいかがですか?
川原:私はこの三人の中では一番の年上で、本放送をリアルタイムで見た世代です。モビルスーツよりもストーリーが好きで、中学生の頃は富野監督の作品をおいかけていました。ガンダムより先に富野監督の作品も見ていて、日本で初めてに近いくらいの、本格的なSF作品になると期待していたほどです。その期待はまったく裏切られることなく、第一話から夢中になりました。その後、『逆襲のシャア』で一回卒業するんですが、社会人になってたまたま、2005年に大阪で開催されたアート展「GUNDAM―来たるべき未来のために―」にかかわりました。うちの会社で仕事をする機会がありそうだと噂を聞きつけ、絶対にやると手を挙げて、デザインと演出に潜り込んだんです。そこで1/1コアファイターを制作させていただいたのが、今に続くきっかけでしたね。
藤原:そうだったんですね。
川原:そこから富士急ハイランド『ガンダムクライシス』と、「潮風ガンダム」の立像を経て、「動くガンダム」につながっていきました。考えてみれば、会社員生活の半分くらいの期間、ガンダムの立像にはかかわっていますね。
藤原:いずれもおもしろい経歴ですね。ちなみに、皆さんお好きなモビルスーツはあるんでしょうか?
石井:僕はドムが好きなんです。
吉崎:私はハイゴックですね。
川原:私はモビルアーマーで、一番好きなのはビグザムなんです。
石井:モビルスーツでって聞かれているのに、モビルアーマーと答えるんですよね。そこが川原さんのこだわりで。
川原:ヒト型じゃないデザインが好きなんですよね。
藤原:吉崎さんのハイゴックは世代の違いを感じさせますね。でも、やっぱりみなさん、一年戦争の機体がお好きで、それだけ印象に残っているんでしょうね。

ガンダムを消費する側から、GOIでガンダムを提供する側になる

「動く『機動戦士ガンダム』プロジェクト」が、科学的・工業的発展に寄与した部分は何でしたか?

藤原:それでは、次第に深い話に移っていければと思います。先ほど川原さんのお話にもありましたが、「動くガンダム」の前段階として、2009年にお台場・潮風公園で作られた「潮風ガンダム」がありました。あれを見た時に、私たちは改めて18メートルのリアリティを感じた訳ですよね。それまで空想だったものが、どんどん現実の方に出てきたような印象を、僕は持ってるんですね。

それが「動くガンダム」では、いよいよ動いたということで。空想と現実の行き来がさらに加速していきました。そのためには、僕らが想像する以上に、さまざまなチャレンジがあったと思います。そのあたりの価値や意味について、それぞれの業界のお立場から、お聞きできないでしょうか。

特に「潮風ガンダム」から係わっていただいて、デザイン画をおこしていただいた川原さんにとっては、この空想と現実の行き来であったり、そこから生まれた意味や価値について、何かお感じになられたことがあるのではないでしょうか?
川原:「潮風ガンダム」はデザインの方向性がなかなか決まりませんでした。それが決まった瞬間があります。当時はまだB747 スーパージャンボが就航していました。ある時、スーパージャンボの羽の付け根の部分にあたる座席に座っていて、片翼を見ていました。そうすると、飛行機の翼って金属でできているのに、結構しなやかに動くことに気がつきました。

また、着陸時にフラップが動いて、想像以上に翼の面積が広がったんです。それを見た瞬間に、これじゃないかと思ったんです。「潮風ガンダム」は立像でしたが、動かないけれど動くように見せるリアリティとディティール感について、何か答えが得られたような気がしました。ちょうどスーパージャンボの片翼が20メートルだったこともありました。ガンダムって、これくらいの大きさなんだなって。
藤原:それは興味深いですね。
川原:その後、実際にデザインを進める中で、プロポーションのバランスを変えたり、デザインの密度感を上げたりといった作業を進めていきました。ガンプラを参考にしつつ、常に下から見上げたときに、どのように見えるかを意識していましたね。

その中でもうまくいったことに、色によるディティール感の追加があります。ガンダムは白い面積が多いですよね。それを同じ色で塗るのではなく、階調の異なる4色くらいの色で塗り分けました。それによって単調さを緩和させたいなと思ったんです。ヒントになったのが映画『スタートレック』のエンタープライズ号です。テレビ版では白一色でしたが、映画版ではアズテックパターンと呼ばれる、細かいパターンが船体に追加されました。ああいったことをガンダムでやったら、リアリティが増すんじゃないかなと思いました。
藤原:空想のキャラクターを、そのイメージを保ちつつ現実化するのは、一足飛びではできないんですね。「潮風ガンダム」には大きな意味があったんですね。
川原:そうですね。「潮風ガンダム」では、製造工程でもかなり先進的なことをやっています。最初に模型を作って、それを3Dスキャンして、そこからデータを修正して、原寸大の原型を作りました。それも3Dプリンターがまだ黎明期の時代でしたから、掘削機を使って原型を作ったんです。その過程をメイキングとして公開したことで、日本のモノづくりや造形のレベル向上に貢献できたのではないか、と思っています。石井さんと吉崎さんからも、「潮風ガンダム」を見てモチベーションが上がったエンジニアが結構いたとも、後になって伺いました。そんなふうに、業界全体で盛り上がったのが、一番良かったと思います。
藤原:実はガンプラにおいても、それまではモールドの意味や、カラーリングの階調などは、そこまで突き詰めて考えていませんでした。それが「潮風ガンダム」をきっかけに、内部のフレーム構造だけでなく、表面の密度感がすごく上がっていったところがありました。そういう意味でガンプラにおいても、大きな影響を与えたプロジェクトでしたね。続いて吉崎さんはいかがでしょうか?
吉崎:まず「動くガンダム」を作ったからといって、ガンダムが完成したとは、誰も思っていないと思うんです。まだまだ発展途上であって、そのためにも「動くガンダム」では「我々が本当に作りたいもの」「今回達成すること」「将来に向けてのアイディア」について、関係者で共通認識を得る必要がありました。何度も作り直せるようなプロジェクトでは、ありませんでしたからね。

そこで「動くガンダム」では、事前に検証用のコンテンツを作りました。まずサンライズさんからCGのデータをいただきました。それと並行して川原さんから2Dのデザイン画をいただきました。その上で石井さんからCAD向けのデータもいただきました。これを私がゲームエンジン上で組み合わせて、VR HMDで体験できるものにしたんです。それを関係者で見ながら、細部を摺り合わせました。当時としては、相当新しいアプローチだったのではないかと思います。
石井:あのVRは良かったですよね。みんなの意識が高まりました。
吉崎:「動くガンダム」では、学術界の方にもご参加いただいています。その中の一人で、中京大学のピトヨ・ハルトノ先生が、こんなことを言われていました。先生に「このプロジェクトにはガンダム好きの人が集まっているので、参加された企業のモチベーションも高いですよね」とお話ししたら、「その通りだけども、もうその時期は終わった」と答えられたんです。好きというだけで集まることも大事なんだけど、いざガンダムを作るという段階では、覚悟が必要になる。好きだけではなくて、そこから覚悟を持った人たちが集まった段階で、プロジェクトが本格始動すると考えられていたように思います。
石井:「動くガンダム」では9社がテクニカルパートナーとなり、合計30名程度の方が出席して、隔週で進捗会議を行っていました。そこでいろいろな問題に対して、対応策を協議していったんですが、皆さんすごくポジティブだったんですね。企業横断プロジェクトでは「ここまでがうちの責任で、ここから先はできません」みたいな事態になりがちですが、そうした境界を皆さん、どんどん乗り越えてきていただいて。すごくまとめやすかったです。
藤原:その違いは大きいですね。互いにもう一歩クロスオーバーするかどうかで、完成度が大きく変わってくるわけですよね。各社が一歩ずつ歩み寄ってくれたのは、皆さん「ガンダムを動かす」ことに対する熱量が高かった、ということなんだと思います。そうした中で石井さんとしては、「動くガンダム」から何を感じ取られたのでしょうか。
石井:大学を卒業して建設器機のメーカーに入社したのは、「乗って動かすロボット」を作りたかったからです。そこでいろいろな設計に携わって、自分の中でも大きな機械を作るノウハウを蓄積していきました。その後、「潮風ガンダム」を見た時に圧倒されながら、「腕ぐらいなら、動かせるかな」みたいな感想を抱いたんです。この前、当時のSNSを見たら、そんなことが書かれていました。だから「動くガンダム」のお話をいただいた時も、既存の技術をうまく活用すれば、ちゃんと動くものができるってイメージはありました。

ただ、どこまで動かせるかは、やってみないとわかりませんでした。だからこそ、18メートルのロボットを、ちゃんとモビルスーツとして動かせた。そんなふうに、いろいろな立場の人が一堂に集まって、ガンダムを実現できたこと自体に価値があったと思います。皆さん、ふだんはクレーンを作っていたり、産業用ロボットを開発されたりしているんです。そうした技術があわさるとガンダムとして動くというのは、誰もが初めての経験でした。皆さん、すごく楽しんで取り組まれていましたね。

バンダイナムコグループでは、「動くガンダム」をどう位置づけ、GOIにつなげていくのでしょうか? また、皆さんがGOIに参加されるとしたら、どういった研究をやってみたいですか?

藤原:貴重なお話ありがとうございました。改めてお聞きして、ガンダムというキャラクターが好きであることの熱量の大きさ、パワーの強さみたいなところを、強く感じました。また先程申し上げた、ガンダムを支えてくれているファンの力が、こんなにも大きなものになったことの実感を得て、心強く思いました。それとともに、みなさんのガンダム愛、ガンダムに対する熱量に対して、今後どういう形でバンダイナムコが向き合きあうか。それによって、ガンダムというキャラクターがより大きな力を生みだせるか否かが左右されると、実感しました。

今、我々はGOIという取り組みをはじめています。初代ガンダムの冒頭で「増えすぎた人口を宇宙に移民させる」というナレーションがありますよね。それが実際に起こるかどうか分かりませんが、40年前の作品が今日の社会課題を、予見してたかのような台詞から始まっています。そこでGOIではガンダムという切り口から、現実の社会課題、そして今後我々がどうあるべきかみたいなことに対して、しっかりと向き合っていきたいと思ってます。

皆さんはGOIに先駆けて、「動くガンダム」という目標に向けて取り組まれましたよね。その時の経験も踏まえつつ、ガンダムでこんなことができるんじゃないかと、改めて気がついたことや、もしみなさんがGOIに参加されるとしたら、こんなことをやってみたいといったアイディアがあれば、お聴かせいただけませんか?
石井:私たちの世代が初めて触れたSFはガンダムでした。たとえばスペースコロニーが宇宙に浮かんでいて、回転しながら人工重力を作っている、などです。そうした方向に人類が進んでいくとしたら、期待しかありません。人類が宇宙をめざすうえで、アポロ計画をはじめ、さまざまな取り組みや、憧れになったできごとがありましたが、そうしたものの一つとして、ガンダムが描いてきた世界観もあると思います。そのうえで個人的にGOIで何をやりたいかと聞かれれば、やっぱりモビルスーツを作りたいですね。「動くガンダム」をふまえて、今度は操縦できるものを作りたいです。

要はサイズの問題だと思います。吉崎さんとも、そういう話を良くするんですが、18メートルのロボットを地球上で成立させるためには、我々が重力や物理法則の中で生活していることを忘れてはいけません。モビルスーツが地面に倒れたときのエネルギーを、どう吸収するか、などの問題について考える必要があります。そのため、サイズをスケールダウンしていくで、歩かせることが可能だと思うんです。
吉崎:よく話題に上るんですけど、切り口によって考え方は変わるんですよ。一日だけなら、研究だけなら、倒さないなら、床が水平なら、地震が来ないなら、一回だけ歩ければ良いなら、そうした仮定が前提なら、絶対に無理だとは言えないと思います。ただ、自分で作るなら8メートルだと思っています。
川原:良い大きさですよね。8メートルって。
吉崎:自分で取り組むなら、指の動きについて考えてみたいですね。「動くガンダム」では、どういう動きをするか、すべて決まっています。ただ、指だけは常に状態監視をしながら、風が吹いたときにちょっと違う動きをするなど、外部からの力にあわせて、その場でロボティックに動かしています。一方でアニメのガンダムでは、第一話でザクがハッチを指で開けてコロニーに侵入したり、ガンダムがザクの廃熱ダクトをつかんで動力パイプを引きちぎったり、といった描写があります。ああいった器用な動き、激しい動き、あるいは柔らかい動き、それらがすべて可能な指が作れるのか、興味がありますね。

そう考えると、「動くガンダム」の指でも実はできることがたくさんあるし、人間の手のサイズでも、実はそんなに優れた指は開発されていない、という言い方もできます。今、弊社では金槌を振り回す頑強さと、体毛をカミソリで剃れる器用さを併せ持つ指の研究開発をしています。ザクと同等の機能を持つ指を操作することは、まだまだ難しい課題ですが、将来できるようになるかもしれません。そうした指が実現して、子供たちが自由に触れるようになれば、デジタルネイティブみたいな感じで、ロボットの操縦に適用した人間に育つ……そんな日が来るかもしれませんね。
藤原:ガンダムをテーマにしながら、劇中のシーンをただ再現するのではなくて、あのシーンを突き詰めたから、世の中にとってこんなハッピーなものが生まれた……。そんなところに持っていけると、すごくいいものになりそうですね。皆さんが今やられているいろんな研究がガンダムとあわさることで、より魅力的なものになったり、着地点がクリアになるみたいなことがあると、良いなと思います。
川原:モビルスーツのようなものに乗ってみたい、操縦してみたいという思いは、みんなあると思うんですよね。一方でちょっと違う視点で言えば、ガンダムにはSFとしての、いろんな魅力があります。石井さんが言われたスペースコロニーなどは、その一つですよね。他に『Gのレコンキスタ』に登場する軌道エレベーターなどもあります。社会インフラや経済などの仕組みがバックボーンにあり、それが作品に深みを与えているんだと思うんです。
弊社の本業は空間デザインで、自分はそういった仕事も多いので、未来のモビリティや空間の使い方などに興味があります。たとえば劇中の軌道エレベーターでは、地表から宇宙空間にあるターミナルまで、3日かかるという設定なんですね。エレベーターの中で3日間すごすって、考えたらすごいことです。どんな空間になっているのか、どんな体験ができるのか、そういったことを考えるのは、すごく難しいけれど、おもしろいし、わくわくします。こんなふうに、ガンダムの世界観を未来のインフラという視点で考えると、いろんな気づきがあるように思います。
藤原:軌道エレベーターの3日間をどう過ごすかなんて、ふだんから空間デザインについて考えられている方ならではの気づきかもしれませんね。他にパイロットスーツひとつとっても、あんなに柔軟に動かせる宇宙服は、まだありません。宇宙食についても、今はフリーズドライが主流ですが、ガンダムだと宇宙空間で、普通に食べているじゃないですか。宇宙という空間が、これからより身近になっていくとしたら、そうした問題も出てきます。衣料業界、食品業界の方にも、広がるテーマなんですね。
川原:実際、宇宙には行ってみたいですよね。すでに商業ツアーが始まっていますが、一度でいいから地球を足下に眺めてみたいです。

バンダイナムコグループではGOIを通して『機動戦士ガンダム』をIP(※1)からSP(※2)に進化させるとのことですが、具体的にどういったことでしょうか?

藤原:ありがとうございます。どれも興味深いテーマばかりで、ガンダムという切り口を通して、さまざまなテーマが対象になることが見えてきました。バンダイナムコグループでGOIを進めていく理由の一つも、そうした社会的な広がりにあります。GOIを通して、ガンダムのあり方を変えていきたい。グループではよく、IPという言い方をしていますが、ガンダムをIPからSP、いわば社会的アイコンであったり、ソーシャルプロパティといった存在にまで、進化させていきたいと考えているんです。

では、IPからSPに進化することで、ガンダムがどう変わるのか。一番はガンダムとの向き合い方の変化だと思っています。今まではバンダイナムコとして、ガンダムはどうあるべきかを考えて、それを製品やサービスという形でアウトプットし、お客様と共有してきました。しかしSPになると、もちろん我々もしっかり考えるんですが、それ以上にお客様との対話を通して、ガンダムファンにとって一番良いことは何か、双方向からキャッチボールしながら、見定めていくことになります。その際の共通項は「ガンダムが好き」であること。そうした熱量を持った方々のご提案を、我々がしっかり受け止めて、きちんと咀嚼して、あるべきガンダムの姿について、一緒になって考えていく。それが我々が考えるSP、社会的アイコンであり、ガンダムとの向き合い方なんです。「動くガンダム」にも、そうした側面があったように感じているのですが、皆さんはどのようにお感じになりますか?
川原:今年の5月に上海で『機動戦士ガンダムSEED』シリーズに登場する、「実物大フリーダムガンダム立像」のオープニングセレモニーが行われましたよね。現地のインタビュー映像などを見ていると、日本と同じように、中国の方もガンダムが好きだということが、よく伝わってきました。すごく嬉しかったですし、ほっとしました。ガンダムという共通語があそこで生まれた訳ですからね。そんなふうに文化の壁などがありつつも、ガンダムが一つのコミュニケーションツールになっていく流れは、他の国でもこれからあり得ると思います。最近はコロナ禍の巣ごもり需要で、アメリカやヨーロッパでもガンプラの売上が伸びているとお聞きしますし、いろんな意味で、ガンダムがカルチャーにつながっていくんだなと思いますね。

これが将来的にどうなっていくか。『スター・ウォーズ』などは、アメリカである種のSPになっていると思うんです。実際にプロのコスプレイヤーが集まって、帝国軍の一団に扮装し、各地の医療施設を慰問に回るといった活動が、無償で行われています。日本でもそうした活動が行われているんですね。ガンダムでも同じように、さまざまな社会貢献が進んでいくのが、ソーシャル的な展開なのかなと思っていました。
吉崎:これまで社会的アイコンという言葉に馴染みはありませんでした。ただ、藤原さんの話を伺いながら、下書きがあるものをそのまま製品化するのか、それとも互いにやり取りをしながら、いいものを作っていくのか、その違いがあるように感じました。「動くガンダム」でも、さまざまな人間が集まることで、全く新しい分野でガンダムがを作り上げることができましたし、それが他の分野にも広がれば、きっと素敵なことだと思います。

また、先ほど『スター・ウォーズ』の慈善事業的な展開に関する話がありましたよね。それを聞いて思いだしたのが、災害速報アカウント「特務機関NERV」というツイッターアカウントと、防災アプリです(※3)。そうした、なにか社会的に意味のある取り組みにガンダムが加わることで、さらに意味付けが強くなる、訴求力が上がるなどの現象がが起きれば、本当に凄いことだと思います。ガンダムがSPになることで、そうした動きが加速するのであれば、すごく楽しみです。
石井:SNSで社会の双方向性がすごく加速しましたよね。昨日も「動くガンダム」で、すごくクオリティの高い写真がアップされていて、多くの「いいね」を集めている投稿をみました。そんな風に、一方的に企業からサービスや製品を提供されるのではなく、それをどう解釈して、発信していくか、そんな世の中になってきていると思います。それに対してバンダイナムコさんが、そうした方向にシフトしていくのは、当然の流れかなと思いますし。そうすることによって、我々の世代がいなくなった後も、ずっとガンダムが続いてほしいなと思います。ガンダムがSP化することで、何百年も続くような、価値のあるものになっていくと嬉しいですね。
藤原:ありがとうございます。石井さんが言われたように、SP化で一番大事なことは、ガンダムが長く愛され続けることだと思ってます。そのためには当然、我々も必死になっていろんなことを考えますが、我々だけの熱量では、なかなか難しいと思うんです。ガンダムがこれだけ多くの方に支持されている背景には、何よりもガンダムのファン同士の熱い思いや、それによって生まれた繋がりがあると思っています。そうした思いを当たり前に共有できるような、そんなガンダムであってほしいなと思っています
※1:Intellectual Propertyの略。 ゲームやアニメのタイトルや、キャラクターなどの知的財産権をさす。
※2:Social Propertyの略。バンダイナムコグループがGOIを通して達成したい、新しい社会概念。
※3:「特務機関NERV」の名称およびロゴマークは、『エヴァンゲリオン』シリーズの著作権者である株式会社カラーと、同作の権利を管理する株式会社グラウンドワークス:の許諾に基づき使用されている。

バンダイナムコグループではこれまで、アクセラレータプログラムという取り組みを行ってきました。GOIとアクセラレータプログラムの違いに触れつつ、広く参加の呼びかけをいただければと思います。また、お三方からも今日の感想をお願いします。

藤原:最後にGOIについて補足させていただくと、バンダイナムコグループではこれまでアクセラレータプログラムという活動を進めてきました。何か新しいアイディアをお持ちのスタートアップ様と、バンダイナムコが一緒になって、新規事業の開拓を進める取り組みです。GOIもアクセラレータプログラムに近しい部分がありますが、一つ違いがあります。GOIでも具体的なアウトプットなり、社会実装ができるといいなとは思っていますが、あまりゴールを明確にするつもりはありません。実際、ゴールを明確にしすぎると、アイディアの広がりが狭まってしまうと思うんですね。
もちろん、アイディアを審査させていただく際、具現化の道筋がある程度、見えることは大事だと思っています。しかし、必ずしもいつまでに何ができなければ駄目だ、という制約を付けるつもりはありません。むしろ「ガンダムが好き」という思いを持つ企業同士、もしくは企業と個人が、GOIを通して関係性を築けることが、一番の成果だと思っています。そのため、リアリティあふれる具体的な提案というよりも、「ガンダムだったらこんなことができる」「その中で僕は、私はこれができる」「バンダイナムコと一緒に取り組むことで、その可能性が高まる」といった提案がいただけると、すごく嬉しいです。皆さんはいかがでしょうか?
石井:私も「動くガンダム」にたずさわることで、ガンダムを消費する側から、コンテンツを提供する側になりました。それは、すごく貴重な経験でした。GOIに参加することで、同じような体験を皆さんにもして頂ければと思います。本日はありがとうございました。
吉崎:これまでGOIについていろいろとお話をお聞きしながら、私たちの思いが起点になるプロジェクトという点が、一番重要な点かもしれないな、と思いました。私も「動くガンダム」を通して、本当にいろんな、他ではできない経験をさせていただきました。それがGOIでは、よりオープンになり、さまざまな知見となって、世に出していけるといいのかなと思います。本日はありがとうございました。
川原:「動くガンダム」では足かけ5年ぐらい携わりました。本当にあっという間の5年間でした。特に石井さん、吉崎さんにかかわっていただいた後半は、前半と比べて、ずっと楽しい毎日を送ることができました。そこでは、あるプロジェクトを進めていくうえで、普段知り合えないような方や、さまざまな企業と一緒に「共創」することの、おもしろさと素晴らしさがありました。GOIを通して、一体何が生まれていくのか、非常に楽しみです。本日はありがとうございました。
藤原:今日、皆さんからいただいた経験談、そして考えられてることを受けて、さまざまなアイディアが生まれてくることに、期待が持てました。これからもガンダムを成長させていくうえで、それぞれの知見から、いろんな取り組みで、お力添えいただければと思っています。我々としてもそうした思いに対して、真摯に向き合って参ります。本日は本当にありがとうございました。