キーパーソンインタビュー

客観的な視点で意見交換を重ね
取締役会の監督機能を強化し企業価値向上を目指す

株式会社バンダイナムコホールディングス 社外取締役 松田 譲

株式会社バンダイナムコホールディングス
社外取締役 松田 譲

1948年6月
25日生  新潟県出身
1977年3月
東京大学大学院博士課程修了(農学博士)
1977年4月
協和発酵工業㈱(現・協和発酵キリン㈱)入社
2000年6月
協和発酵工業㈱執行役員医薬総合研究所長
2002年6月
協和発酵工業㈱常務取締役総合企画室長
2003年6月
協和発酵工業㈱代表取締役社長
2008年10月
協和発酵キリン㈱代表取締役社長
2012年3月
協和発酵キリン㈱相談役
2012年6月
公益財団法人 加藤記念バイオサイエンス振興財団理事長(現任)
2014年6月
㈱クボタ社外取締役(現任)
 
㈱バンダイナムコホールディングス社外取締役(現任)
2015年6月
JSR㈱社外取締役(現任)

 

バンダイナムコグループは、変化の速い業界でグローバル規模の競争に勝ち抜くためには、強固な経営基盤(コーポレートガバナンス)を構築することが不可欠であると考えています。この考え方のもと、経営の監督機能の強化を行うため、独立社外取締役3名、独立社外監査役3名、計6人の独立役員を選任しているほか、取締役会の機能を客観的な視点から評価することを目的に、独立役員のみで構成される独立役員会を組成しています。
今回は独立役員会の議長を務める松田譲・社外取締役に、バンダイナムコグループに対する印象や期待することなどを聞きました。

経歴を教えてください。

松田:専門が発酵学や応用微生物学ということもあり、大学院の博士課程を修了してから協和発酵工業㈱に入社し、研究開発部門で医薬品の種になる微生物を探す研究に長く携わってきました。医薬総合研究所長を勤めた後に総合企画室に異動になり、翌年の2003年に社長を拝命しました。キリンファーマ㈱との合併により協和発酵キリン㈱となって以降も、2012年まで社長を務めていました。

経営者としてのモットーは?

松田:「夢なかりせば何事も起こらず」。これはアメリカの詩人カール・サンドバーグの言葉ですが、企業経営においても、それぞれのあるべき姿や目標を明確に立てて、その実現のために今何をしなければならないのかと、バックキャスティングで考えるようにしてきました。

バンダイナムコの社外取締役に就任した経緯を聞かせてください。

松田:協和発酵キリンの社長を退任するときに、産業界、特に異業種でこれまでの経験を生かすことができればと考えていたところ、当時の石川祝男社長(現会長)からお話をいただいたことがきっかけでした。バンダイナムコについては、子どもや孫がおりますので、「ガンダム」や「ウルトラマン」は知っていましたが、エンターテインメント業界がどんなところなのか、どんな事業を行っているのかということについては、詳しい知識はありませんでした。しかし、経営の本質は変わりません。海外拡大やM&Aなど、経営者としての経験や知見を生かし、第三者的立場から経営へのアドバイスや助言を行っていきます。

就任後、バンダイナムコの風土やカルチャーをどう感じましたか?

松田:社員が自由な服装でのびのびと明るく働いている姿が象徴するように、形式だけにこだわらない会社だという印象を受けました。株主総会でも、儀礼的な総会ではなく、真摯にステークホルダーと向き合う会社だと感じました。なかでも驚いたのは、各役員が時間の許す限り、一つひとつ丁寧に質問に答えていたことです。これはやはり、ユーザーやファンを大事にするという意識の現れだと思いました。
 取締役会も非常に明るくフランクで、私も発言をためらうようなことは一度もありません。言いたいことは全部話しています。そういう点では、取締役会の体制や運営方法などを高く評価しています。

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社外取締役と社外監査役で構成する独立役員会の議長を務めています。

松田:独立役員会の一番の役割は、グループの経営を担う取締役会に対してチェック機能を果たすことです。社外取締役は事業に対する専門性は社内の人には及ばないかもしれませんが、社内からは出てこない意見だったり、それこそ傍目八目で、客観的に見て思うところを進言しています。経営に疑問を感じるところがあれば、異議を唱えます。異議がなくても、議案についてこれまでの経験を踏まえながら、闊達な意見交換を重ねるようにしています。

 私は経営に必要な要素は、透明性・公平性・スピードの3つだと思います。社外役員として、取締役会において活発な意見交換がなされ、健全に機能し、運営されているかを、この3つのポイントと照らし合わせて見ています。独立役員会という第三者機関が示した評価を受けて、取締役会が運営されることは、すべてのステークホルダーにとっても企業価値を高めることにつながります。今後も社外役員、独立役員会としての役割をしっかり果たし、コーポレートガバナンスの強化と企業価値向上に貢献していきたいと思います。

昨年、初めて社外役員を含めたミーティング合宿を行いましたね?

松田:あれは素晴らしい企画でした。以前、中長期の課題やあるべき姿を議論する必要があるのではないかと、取締役会の実効性に関する評価の一環として、独立役員会から提言しました。それに答える形で、役員全員が集まり、合宿会議を行いました。合宿では、ホールディングスのあり方そのものについての提言が出るなど、内容のある会議でした。一番評価できるのは、結論ありきの会議ではなかったという点です。こうしたミーティングでは、往々にして結論を先に決めておき、結論に誘導するような形で会議を進めることが多いのですが、この会議ではそんなことはまったくなく、ほかの社外役員からも「あの会議は良かった」という声が聞かれました。

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透明性、公平性、スピードの観点から
取締役会を活発なものにするため提言していく

今のバンダイナムコの課題は?

松田:私は昨年、各SBU(戦略ビジネスユニット)の方針説明会に出席しました。この中で、各事業会社がホールディングスと価値観を共有し、グループとしてまとまって価値の最大化を目指していこうという姿勢が見られたことは、とても良いと思いました。その一方で、IP軸戦略は、大型IPが生まれたので全SBUで一斉に活用しましょうといって進めるような単純なものではないことも知りました。IPの世界観も、各事業ごとの展開方法も異なるからです。多くの出口を生かしてIP価値を最大化するのがグループの強みですが、現場に任せることでIPがより生きることもあります。このように、あらゆる面でホールディングスの求心力と現場の遠心力をどのようなバランスで働かせていくかが、今後の1つのポイントだと思います。

独立役員会として心がけていることは何ですか?

松田:今年の独立役員会の提言は、グローバル企業として各地域の状況にスピーディーに対応し、経営資源であるヒト・モノ・カネをどうやって分配し、生かしていくかについて仕組みの整備をさらに行うべきというものでした。バンダイナムコグループは「世界で最も期待されるエンターテインメント企業グループ」になることをビジョンとして掲げており、グローバルエンターテインメント企業としてのあるべき姿を明確に描き出し、そこからバックキャスティングで今何をしなければならないかを会社全体で考えていく、そういうステージにあります。今後、海外展開を強化し、新たなジャンルへの進出などを考えた場合、これからまた一つ、ギアチェンジが必要です。それは取締役会の共通認識でもあり、コーポレートガバナンスのあり方自体からも真剣に検討しています。独立役員会は取締役会の諮問機関として、リスク管理からヒト・モノ・カネの使い方、そして取締役会をどのようにより良く、活発なものにしていくかまでを提言していかなければならないと思っています。

今後、バンダイナムコに期待することを聞かせてください。

松田:素人目に見ても、各SBUの事業はもっと成長する可能性があるものばかりです。さらにスピード感を持って対処していくことが必要ではないでしょうか。また、現在はどうしても若年層がメインターゲットになっています。しかし、わくわくしたり、どきどきしたり、楽しんだりすることは、子どもや若い人の特権ではありません。大人も同じです。ましてやこれからは高齢化社会ですから、あらゆる世代のニーズを捉え、エンターテインメントの新しい顧客層の発掘にぜひとも取り組んでもらいたいと期待しています。