社外取締役座談会

ガバナンスの実効性を高めつつグループの経営戦略を精査し、
より持続的な成長をサポートしていきます。
バンダイナムコグループが2022年に実施した監査等委員会設置会社への移行と経営体制の変更から1年が経ちました。
順調に業績を伸ばし、売上高が1兆円を超える状況も視界に入ってくる中、グループ経営をさらに強固にすべく、
監査等委員を含む社外取締役5名が自由な立場から語り合いました。
島田 俊夫 社外取締役
川名 浩一 社外取締役
篠田 徹 社外取締役 監査等委員
桑原 聡子 社外取締役 監査等委員
小宮 孝之 社外取締役 監査等委員

監査等委員会設置会社への移行から1年

川名:世の中の大きな流れを背景に、企業のガバナンスの在り方が変化しつつあります。バンダイナムコはこうした新たな動きを体現する企業であり、その1つの象徴が、2022年に実施した監査等委員会設置会社への移行です。
 細かな決裁が常勤役員会に委譲され、上程議案が絞り込まれて、取締役会ではより大局的な議論に集中できるようになりました。オフサイトの会議開催など、実効性向上に向けた様々な施策も取られています。従来の監査役に代わる取締役監査等委員の方々も議決権を持ち、より大きな発言力を持って議論に参画されています。

桑原:当社の取締役会はこれまでも、私たちの提言に応えて進化を続けてきました。2022年の機関設計変更により、その先のモニタリングボード化に向けた意識共有が一段と進んだと感じます。
 取締役会と監査等委員会の連携が重要視される中、私自身、取締役監査等委員に転じて気づいたのは、ガバナンス関連の話が前よりスピーディに共有され、常勤委員の方との意思疎通も行いやすい印象を持ちました。このポジションを活かして、社外取締役間での連携を深めていきたいと思います。

島田:2021年の就任から2年経ちますが、この間の変化を振り返ると、確かにモニタリングボード化に拍車が掛かり、取締役会でより大局的な議論をするためのフレームができてきました。ただ、上程議案や会議の流れには、まだ昔の名残のような要素も見受けられます。これからは取締役全員の取り組みにより、器に魂を入れていく段階になると思います。

篠田:取締役監査等委員の立場から2022年の改革を見ると、内部監査部門との連携強化という側面があります。また以前から、各事業統括会社との間で四半期に1度「グループ監査役等協議会」を開催しており、2023年3月期からは各ユニット内で同様の枠組みを設けました。グループ全体の監査関係者の意識向上に、有効な取り組みだと思います。

小宮:2022年に当社の取締役監査等委員となるまでは、(株)バンダイナムコアミューズメントの監査役を務めていました。事業統括会社から持株会社へ、また議決権を持たない立場から持つ立場へと、果たすべき役割も変わり、一層緊張感を持って職務に臨むようになりました。これまでの経験を活かしつつ、新たな環境で貢献していきたいと思います。

2023年3月期業績の評価

川名:当期は「ELDEN RING」の大ヒットなどもあり、売上高1兆円が見えてきたエポックメイキングな1年でした。特に評価したいのは、アミューズメント事業が過去最高業績を達成したことです。コロナ禍で苦しい中、構造改革を進めつつ従業員のモチベーション向上に努めてきた成果であり、ALL BANDAINAMCOの新たな展開を予感させる出来事だったと思います。

桑原:業績は文句なしで、称賛すべきパフォーマンスです。特にアミューズメント事業などグループの収益バランスも改善されてきました。
 ただ期末に、仕掛品などの評価損計上をするという発表を行いました。もちろん、2024年3月期に向けて事業計画を精査することは良いのですが、市場との対話という意味では、オペレーションと見込数字設定の精度を今後一層高めていく必要があるでしょう。

島田:「ELDEN RING」をはじめ、様々なIPの出口戦略でグループ力の高さを示した1年でした。一方、積極的な事業活動の裏返しとはいえ、評価損などが発生し、過去最高益の更新はなりませんでした。より精度の高い事業見通しに基づき、必要に応じて早期の軌道修正がなされるよう、改善をはかる必要があると思います。

篠田:当期の好業績は、トイホビー事業におけるハイターゲット(大人)層向けビジネスの伸長が示すように、ローリングベースの地道な種まきの結果です。中長期的視点でIPを育て、広めていくことの重要性を改めて実感しました。他方、ゲーム開発の規模拡大やクオリティ重視の傾向が進む中、開発過程の管理に課題を残す結果となりました。

小宮:事業ごとに毎年好不調はあるものの、それらが全体として補完し合い、高成長を続けてきたことは素晴らしいと思います。一方で、あれだけの評価損などを計上したのはやはり驚きで、繰り返してはならないことだと思います。この間のプロセスを検証し、今後に教訓を活かしていく必要があります。

パーパスの浸透・実践に向けて

川名:パーパスやESGというと、日本企業はとかく「形」から入りがちですが、重要なのは中身です。理念が現実の行動様式に反映されるよう、社内への徹底した浸透をはからなければなりません。その点、当社では従業員自らが、パーパス実践に向けた議論を様々な場所で行っています。こうした姿勢を今後とも継続し、PDCAサイクルを回しながら取り組んでいくことが大切です。

従業員自らが、パーパス実践に向けた議論
を様々な場所で行っています。こうした姿勢
を今後とも継続し、PDCAサイクルを回しな
がら取り組んでいくことが大切です。

島田:「ファン」「世界」を重視する考え方は、もともと当社の組織風土に根付いていて、それを改めて言葉にしたものがパーパスだと見ています。そういう意味では、すでにパーパスは浸透しているのかもしれません。とはいえ、現在のファン以外も潜在市場であり、また世界という言葉が、日本以外という錯覚に陥らないように留意していきたいと思います。

篠田:確かに、パーパスはもともと組織風土にあったものですが、それを言語化したことで浸透がさらに進み、グループとしての一体感も生まれてきました。新しいロゴマークの「吹き出し」は、「コミュニケーション」「つながり」といったパーパスのコンセプトをよく表現しており、対外的浸透にも活用できると思います。

桑原:前回行った従業員意識調査では、従業員エンゲージメントに関するポジティブな回答が多く、特に「会社の企業理念に共感できる」という人が7割以上いました。こうした結果を見ても、パーパスには多くの人が共感しているという印象を持っています。

小宮:もともとグループが持つ企業風土を言葉として明記したという点で非常に納得できました。明るく楽しいイメージでまとめられており、素晴らしいパーパスだと思います。

取締役会での発言内容

川名:私が常々意識しているのは、プロジェクトマネジメントの視点です。最近、アニメやゲームのプロジェクトは大規模かつ複雑になり、技術的な挑戦も多くあります。それらをどう管理していくかが、これまで以上に重要になります。また、グローバルな地域戦略に関しても、執行側に様々な問い掛けを行い、忌憚のない意見交換を心掛けています。

島田:私がよく強調するのは、データの取り方です。データは単に取ればいいのではなく、例えば工場であれば、生産ラインのデータを生産性・品質向上につなげていく「フィードバックのループ」を実装する必要があります。データユニバースに関しても、各事業がばらばらにデータを取るのではなく、あらかじめデータの粒度を統一する必要があります。

データユニバースに関しても、各事業が
ばらばらにデータを取るのではなく、
あらかじめデータの粒度を統一する
必要があります。

篠田:個々の事業の運営は別として、ガバナンスや管理面では、グループとして一定の規律が求められます。最近の例では、一部の事業会社で、サステナビリティ施策に関するKPIとグループのマテリアリティの不整合がありました。こうしたことについては、その都度指摘するようにしています。

桑原:私は取締役監査等委員として、守りのガバナンスを意識しています。例えばコンプライアンス事案の場合、再発防止策の妥当性やその後のフォローアップ、また個別性の高い案件なのか、何らかの企業文化が背景にあるのか。常勤委員の方とこうした点について意見交換し、そこに問題意識を持った場合は、取締役会などを通じて執行側に注意を促しています。

小宮:税理士・公認会計士としての経験に基づき、物事を検討・判断しています。事業活動には税の問題が付き物ですので、特に重要な案件については、そうした観点から必要な提言を行うよう心掛けています。

Vision Meetingにおける試み

川名:取締役会や役員合宿とも違う、取締役全員の意見交換の場として、2022年から「Vision Meeting」が新設されました。年2回開催で、各回にテーマが設定され、2022年は社外取締役が司会進行を務めました。議決はあえて取らず、発言も順不同で行っています。各自がそれぞれの視点を持ち寄り、互いに知見を高める場として、有効に機能していると思います。

小宮:直近の回は私も司会進行を務めましたが、各社が抱える様々な問題意識や課題を共有できました。会議の進め方については今後検討の余地があるとしても、有意義な場と捉えています。

桑原:この会は、取締役会の実効性評価を受けて設置されたものです。取締役会の場合、各議案に担当の社内役員がいて、他の社内役員が議論に参加しにくい構造があるので、そこを変えたかったのです。事務局の準備資料も最小限にして、人材戦略やIP軸戦略といった大きなテーマで、自由に議論しています。社内取締役同士で活発に議論していただくことで、私たちの認識や問題意識も深まりますし、非常に良かったと思います。

篠田:社内取締役のIPやエンターテインメントに対する熱い想いが感じられて、非常に有意義でした。社内と社外の意見をすり合わせていくことで、より良い展開が生まれてくることを期待しています。

島田:非常にカジュアルな形で運営され、相互理解を深める良い機会になっています。こういう経験を積んでいくと、取締役会での議論もしやすくなるでしょう。新たな取り組みの第一歩として、とても良かったと思います。

新たな役員報酬体系

川名:2022年に取締役(監査等委員および社外取締役を除く)の報酬体系を大きく見直しました。企業価値向上には役員のモチベーション向上が不可欠であり、またグローバルで優秀な人材を集めるためにも、一定レベルの報酬が求められるからです。もっとも、変動報酬における業績条件付株式報酬については、近年の好業績により、指標となる連結営業利益が業績条件の上限に近づいています。インセンティブとしてこれで本当に機能しているのか、見ていく必要があるでしょう。

サステナビリティ評価については、導入自体が
大きな意識付けになったと見ています。運用
面は今後、事例を積み重ねつつ、より良い
制度運用を模索していきたいと思います。

島田:営業利益750億円~1,250億円という業績条件は、確かに保守的で、次期中期計画に向けて考え直す必要があるでしょう。ただ、変動報酬が年間報酬の約6割というバランスは、概ね妥当だと思います。
 一方、併せてマテリアリティに沿った取り組みの活動結果および従業員エンゲージメントに関わる指標などを組み込んだ、サステナビリティ評価が導入されましたが、2023年3月期の査定はニュートラルでした。TCFD提言や法定開示項目の動向を見据えつつ、今後の制度運用の在り方を継続的に議論していく必要があるでしょう。

桑原:サステナビリティ評価については、導入自体が大きな意識付けになったと見ています。運用面はまだ試行錯誤で、2023年3月期は好材料が揃っていたものの、導入初年度ということもあり、ニュートラルとしました。今後、事例を積み重ねつつ、より良い制度運用を模索していきたいと思います。

サステナビリティへの取り組み

川名:プラスチック問題への対応は、当社が避けて通れないテーマです。グループのみならずサプライチェーン全体での環境負荷低減に向けて、グループサステナビリティ委員会で議論するとともに、様々な現場で取り組みを進めています。私たちの得意な分野でイニシアチブを発揮し、グローバルな関係者を巻き込んでいくことも、当社の使命だと考えています。

島田:事業そのものの持続可能性という観点からは、当社が創出すべき中心的価値は何か、何を経営資源として持ち続けるべきか、明確な基準を設けておく必要があります。事業の急拡大を受けて安易な外製化に頼ると、空洞化を招く可能性があります。もちろん、各現場にはそうした基準があると思いますので、それを改めて言語化し、共有をはかるべきではないかと思います。

篠田:持続可能な成長を支える最重要の経営資源は、人的資本です。当期、グループ人材戦略を重点監査したところ、個々の事業レベルでは、各社が経営戦略に連動した人材戦略を推進し、大きな問題は見られませんでした。他方、事業・地域をまたぐ横断的な人事については、まだ課題があります。海外事業基盤の強化に向けて、管理系グローバル人材の育成は急務です。

桑原:ダイバーシティの面では、今回、持株会社で女性社内取締役が誕生したことは本当に良かったと思います。宇田川取締役は、選任プロセスにおいても過去から高い評価をされてきており、全会一致で結論に至りました。また女性管理職比率も、事業統括会社では上がってきています。ただし、グループ全体では、まだ改善の余地があるのが現状です。
 プラスチック問題については、ランナー回収のように、当面はできるところから取り組みを進めつつ、将来的なゲームチェンジに備えていただきたいと思います。

小宮:サステナブル活動を管理する組織・人材をどのように強化するかが問題です。持株会社には専任部署を設置していますが、各事業会社の管理機能にはばらつきがあり、グループ全体で管理の仕組みを標準化する必要があります。

事業・地域をまたぐ横断的な人事については、
まだ課題があります。
海外事業基盤の強化に向けて、
管理系グローバル人材の育成は急務です。

人材戦略の重要性

川名:当社グループは大学生の就職人気も高く、若者を大きく育てるにはうってつけです。若いうちから権限を与え、小さな成功と大きな挑戦を体験させ、広い視野を持たせることが重要です。性別・国籍の多様化も、多様性の向上に寄与するでしょう。海外では、戦略立案能力を持った人材を現地採用するとともに、グローバルな人材交流を活発化する必要があります。

島田:バンダイナムコが持続的に成長している今、意識して個性的な人材を確保する必要があるでしょう。生成AIのこの時代、尖ったクリエイティブには尖った人材が求められます。
 また、「やりたいことがある」人材を積極的に採用する姿勢が大切です。そしてDXとは、そうした人材をデジタルでサポートすることです。ことさら「DX人材」の育成を意識する必要はないと思います。

現在、当社は業績好調で、人材への手当てには
絶好のタイミングです。事業への投資と並行
して、様々な施策・仕組みの充実を
はかっていくべきだと思います。

篠田:グループ内の人材需要として、マーケッターに比べ、管理系人材がやや手薄な印象があります。グループの規模が急成長する中、組織全体の管理機能も強化する必要があります。

桑原:当社グループの発展には、内外の幅広い人的リソースとの連携が欠かせません。執行側も人材戦略の重要性を認識し、様々な構想を進めているようです。事業全体を見渡し、適切な手を打っていかれることを期待しています。

小宮:現在、当社は業績好調で、人材への手当てには絶好のタイミングです。事業への投資と並行して、様々な施策・仕組みの充実をはかっていくべきだと思います。

さらなる企業価値向上に向けて

川名:社外取締役に求められるのは「空気を読まない力」です。これからも自由な発言を続けて、当社グループの成長に貢献してまいります。

島田:社外取締役として重要なのは、部外者の視点から、考えに考え抜いた質問をすることです。取締役会での議論が有意義な対話となるよう、今後とも研鑽を積んでまいります。

篠田:業績好調の現在は、コンプライアンス徹底のチャンスです。好ましくない事象は早めに芽を摘み、重大事件化を防ぐ体制づくりに貢献してまいります。

桑原:好業績が続いています。こういう時だからこそ、足元を見つめ直し、次なる成長ステージに備える必要があると思います。ガバナンス面を中心に、当社グループのさらなる企業価値向上に貢献してまいります。

小宮:持株会社の社外取締役監査等委員というのは、考えてみれば独特のポジションです。自分自身にその意味を問い掛けつつ、事業会社での監査経験をもとに、微力ながら貢献してまいります。

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