PRESIDENT’S MESSAGE

社長メッセージ

川口 勝
株式会社バンダイナムコホールディングス 代表取締役社長 / グループCEO
IPの価値を最大化し、ALL BANDAI NAMCO
さらなる成長を追求していきます。

売上高は3期連続で過去最高を更新、1兆円が目前に

 2023年3月期(以下、当期)の業績は、IPを軸にした商品・サービスのグローバル展開に向けたALL BANDAI NAMCOでのスピーディな対応や、ファンとつながる様々な施策を推進してくれた従業員一同の頑張りにより、売上高9,900億円、営業利益1,164億円と、年初計画を上回ることができました。売上高は3期連続で過去最高を更新、9,000億円を超え、1兆円の大台が見えてきました。利益面では、デジタル事業において競争が激化する市場環境を踏まえ、タイトルの開発状況やビジネスプランをより厳しく見直し仕掛品の評価損などの計上を行ったため、通期では前事業年度比で減益となりました。しかしながら、事業面においては、中期計画1年目として順調なスタートを切ることができたと思っています。グローバルな事業展開の拡大、主力IPのメディア展開と商品・サービスの強力な連動、IPを軸としたALL BANDAI NAMCOの取り組みに大きな手応えを感じる結果となりました。

 事業別では、トイホビー事業とアミューズメント事業が過去最高業績を達成しました。デジタル事業ではネットワークコンテンツの主力タイトルや家庭用ゲームのリピート販売、トイホビー事業ではハイターゲット(大人)層向け商品やカード商材など、利益率の高い商品・サービスの好調が貢献しました。また、コロナ禍による行動制限の緩和が進み、IPプロデュース事業におけるライブイベントやアミューズメント事業における施設の集客などが回復しました。

中期計画(2022年4月~2025年3月)の進捗

 当社グループは2022年4月、グループの最上位概念として「パーパス “Fun for All into the Future”」を制定するとともに、その実現に向けた3カ年の中期計画(以下、今中期計画)をスタートさせました。「Connect with Fans」を中期ビジョンとし、ファンとつながる新たな仕組みづくり、IPそのものの価値最大化、そしてALL BANDAI NAMCOでの事業体制構築を推進しています。
 以下、主にIP軸戦略の観点から、取り組みの進捗を概観します。

IP×Fan(IPでファンとつながる)

詳細は特集を参照

仮想空間「IPメタバース」については、現在、第一弾となるガンダムのメタバース構築に注力しています。2023年10月には、いよいよテストオープンする予定です。
 当社グループのメタバース構想は、他とは大きく異なります。第一に、IPを軸に展開する取り組みであるということです。第二に、ファンとつながり、ファンとのコミュニティの場をつくることでIPそのものの価値を最大化することを最も重視していることです。これに関連して重要なのは、メタバースの基盤となる「データユニバース」構想です。グループ各社で管理しているファンのデータや嗜好を分析し一元管理することで、商品・サービスに対するファンの満足度向上につなげていきます。
 IP軸戦略のもと、IPメタバースとデータユニバースを連動することで、データドリブンな戦略、デジタルとフィジカルの融合など、従来にない展開を推進していく環境が整っていくと考えています。

IP×Value(IPの価値を磨く)

詳細は特集を参照

 IP軸戦略を支える当社グループで活用しているIPは年間400以上あります。そのうち当期の好業績を牽引したのは、「機動戦士ガンダム」「DRAGON BALL」「ONE PIECE」といった定番IPです。自社IPであるガンダムとは異なり、「DRAGON BALL」や「ONE PIECE」は他社IPとなりますが、当社グループにおける商品・サービス展開は版権元などの外部パートナーと密接に連携して行っています。これら定番IPについては、映像作品のメディア展開と商品・サービスの強力な連動をはかることにより安定的な成長を続け、IP軸戦略における強固な基盤となっています。
 一方、新規IPの創出に向けて、今中期計画では3年間で約250億円の戦略投資を実施し、様々な方向から取り組んでいます。ゼロからイチを生み出すのは困難な作業ですが、こうした地道な種まきが、10年、20年先の収穫につながるはずです。
 このように、自社/他社IP、定番/新規IPは、いわば車の両輪です。今中期計画で再定義されたIP軸戦略は、短期的には投資が先行しても、こうしたIPの価値そのものを長期的視点で最大化することを目指しています。
 上記定番IPの拡大を可能にした要因の1つが、グループ横断の「IPプロジェクト」です。情報共有だけでなく意思決定の権限を付与されたプロジェクトが、横串でマーケティングやスケジュールを管理し、グループ間の調整を行うことで、ALL BANDAI NAMCOによる様々なアクションを迅速化しています。

IP×World(IPで世界とつながる)

詳細は特集を参照

当期のもう1つの収穫は、グローバル展開の進捗です。海外売上高比率は28.5%*と、前中期計画最終年度から6ポイント以上上昇しました。主要エリアの拠点を1カ所に集約する「ワンオフィス化」により、コミュニケーションが活性化され、これまで各社で出展していたイベントや展示会ではIPを軸として共通ブースを出すような動きが自然に見られるようになりました。

* 分子の「海外売上高」は現地子会社の売上高であり、国内からの直接販売は含みません(以下同様)。仕向け地ベースで当期実績は40%以上に相当します。

激動の時代になればなるほど、私たちには
チャンスが巡ってくる。そういう意識と自負を
持って、この追い風を捉え、グローバル市場で
大きく羽ばたいていきたいと思います。

とはいえ、現状は一部のIPやカテゴリーのみの展開です。マーケティングも含め、これまで以上に事業を横断した連携を強化し、国内と同じような事業展開を目指す必要があります。
 映像配信の普及やアニメ映画のヒットを背景に、海外で日本発IPのファンが急増しています。この追い風を活かし、重点地域の北米と中国ではIPや展開カテゴリーを拡大するなど積極的な投資を行っていきます。今中期計画最終年度の2025年3月期には、海外売上高比率を35%に引き上げ、かつ、できるだけ早期の50%達成を目指す方針です。

安定より成長を志向する組織再編

社長就任以来、思い切った組織再編や事業をまたいだ幹部クラスの人事交流を実施してきました。狙いは各ユニット・事業の活性化とノウハウなどの相互交流促進、グループ視点での人材の最適配置にあります。今後も必要に応じて、随時こうした施策を実施していきます。
 現在の組織体制についても、最終的なものだとは考えていません。例えば今、エンターテインメントユニットはグループ収益の多くを稼ぎ出していますが、通常であればこうした形は経営的に回避される傾向でしょう。当社グループがあえてこの形を取ったのは、求めるものが「安定」だけではなく「成長」だからです。市場環境の変化に伴い、成長性を見据えて柔軟に体制を組み替えていくことは、これまで同様に常に検討し続けていきます。

人材戦略:笑顔と幸せがあふれる環境

 当社グループでは、同じ魂を持ち、様々な才能、個性、価値観などを持つ人材が生き生きと活躍することができる「同魂異才」の精神のもと、多様な人材が活躍し、様々なビジネスを牽引しています。グループの1番の財産である人材が生き生きと力を発揮し、従業員自身が笑顔と幸せであふれる環境づくりは、経営陣の重要な責務です。直近の従業員意識調査では、想定以上のスコアが出ましたが、これに慢心せず、さらなる働き方改革など従業員のモチベーション向上に努めていきたいと思います。
 そのほかの課題としては、ALL BANDAI NAMCOの人材戦略が挙げられます。人材の採用・確保は従来、事業会社単位で行ってきましたが、グループ横断的な業務を担う人材は、ホールディングスがしっかり見ていく必要があります。
今後、制度設計なども含め、グループ人材戦略のあるべき姿を検討していく方針です。

サステナビリティとガバナンス

 サステナブル活動においては、グローバルでの期待水準を見据え、具体的指標を設定して取り組んでいます。他方、バンダイナムコならではのパーパスに根差した活動こそ大切ではないかとの想いもあります。これら両軸の取り組みを進めつつ、社会に向けてより積極的な発信を行う必要があります。
 体制面では、今中期計画がスタートした2022年4月、「グループサステナビリティ委員会」と「サステナビリティ推進室」を設置しました。同年6月には監査等委員会設置会社へ移行するとともに、取締役(監査等委員および社外取締役を除く)報酬にサステナビリティ評価を反映させました。
 機関設計の変更は、監査機能や取締役会の監督機能の充実に大きく寄与しています。常勤役員会への権限委譲により、意思決定・業務執行が迅速化した一方、取締役会は重要案件や全体戦略などの議論により集中できるようになり、役員合宿やVision Meetingとともに、自由闊達な討議・検討の場として機能していると考えています。

パーパスの浸透と実践に向けて

 2022年4月、今中期計画のスタートに合わせて、グループ最上位の概念であるパーパスを制定しました。中期ビジョンは、「つながる」「ともに創る」というパーパスで重視している要素を反映し、両者の不可分な関係を明示しています。さらにロゴマークを変更し、原則としてすべての商品・サービスに表示することによって、グループ内に変革へ向けた一体感が醸成されたと感じています。
 この「パーパス“Fun for All into the Future”」は、「世界中の人々の笑顔と幸せを追求していくこと」とも表現できると考えています。笑顔と幸せの追求に終わりはありません。グループとしてさらに成長し、国内外で一層評価される企業へと成長を遂げなければなりません。
 当社は、2023年4月1日付で普通株式1株につき3株の割合で株式分割を実施しました。これも株式の流動性を高めることで、より多くの株主の方々と広く、深く、長くつながりたいという想いによるものです。

激動の時代こそ成長の好機

 今、当社グループが事業展開する市場には追い風が吹いています。一方で不透明な要素も残ります。未知のスタートアップが急激に台頭し、私たちのライバルに成長してくる可能性も否定できません。AIに代表されるようにITの発展は日進月歩です。現状に満足していると、思わぬところで足をすくわれるでしょう。そうしたリスクの可能性を認識し危機感を抱きつつまとめたのが、今中期計画です。
 グループのさらなる成長のためには、個社の集合体としての性格だけでなく、ALL BANDAI NAMCOで一体となって動くことが不可欠です。ホールディングスは直接事業をしていませんが、中長期的な視点で全体の方向性を指し示し、グループに横串を通し、個社では難しい課題に対処していく必要があります。2023年3月期におけるIPプロジェクトの活躍は、そうした新たなグループの姿を体現しているのです。
 バンダイナムコのポテンシャルは、まだまだこんなものではないと確信しています。グループの歴史を紐とけば、世の中が大きく変わるタイミングこそ、成長の好機となってきたことが分かります。激動の時代になればなるほど、私たちにはチャンスが巡ってくる。そういう意識と自負を持って、この追い風をとらえ、グローバル市場で大きく羽ばたいていきたいと思います。
 2005年、(株)バンダイと(株)ナムコの経営統合により誕生した当社グループですが、売上高1兆円、営業利益1,000億円は、当時掲げていた長期の目標数値です。その目標の達成が目前に迫った今、グループは第2の成長ステージに入りつつあります。さらなる進化を目指し挑戦を続けていく私たちに、より一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。

2023年9月
川口 勝
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