CFO／CISOメッセージ

幅広い事業によるポートフォリオ経営が強みを発揮

　2024年3月期（以下、当期）は、デジタル事業が苦戦タイトルの評価損やタイトル編成見直しに伴う処分損計上などにより、大幅な減益となりました。他方、グループ全体では、過去最高業績を更新したトイホビー事業とアミューズメント事業の貢献などにより売上高が1兆円を超え、幅広い事業領域によるポートフォリオ経営の強みを発揮することができました。なお、デジタル事業では、市場環境の変化を踏まえ、前期から開発審査体制のさらなる強化を進めています。具体的には経営視点により開発初期段階で着手すべきタイトルの判断を行う会議体を新たに設置するなどの施策を導入しましたが、開発期間の長期化により、本格的な効果が表れるのは次期中期計画以降となる見通しです。

チャレンジを支える戦略投資

　今中期計画では、各事業における通常投資とは別に400億円の戦略投資枠を設定しています。内訳は ①IP価値最大化に向けた投資250億円、②IPメタバース関連に向けた投資150億円 で、いずれも計画通りに進捗しています。①に関しては、新規IP創出、グループ横断IPプロジェクト関連のほか、スタートアップ投資ファンドによる出資も行っています。②については、メタバースの基盤となるデータユニバースの整備がほぼ終わり、活用に向けたフェーズに入っています。

財務体質強化と資本効率の両立

　ボラティリティの高い業界において、当社グループは、ヒットの有無に左右されにくい安定的な収益基盤の構築に努めてきました。3カ年の中期計画における年間の平均営業利益は、前々回から前回、今回と中期計画ごとに約200億円ずつ上積みすることができ、一連の施策の効果を裏付けています。今後もこの基盤をさらに強固なものとしていきます。
　利益率については、今中期計画では営業利益率10%以上、ROE 12%以上の安定的確保を目指しており、いずれの年度も目標値をクリアしています。また、変化の激しい当業界においては一定の財務的余力が必要だと認識しています。常時保有したい資金としては、従業員雇用維持のための1年分の人件費、パートナー企業を含めた安定的な事業運営のための運転資金、1年分のゲームコンテンツ開発費などとなります。また、足元では将来の成長に向け、トイホビーの生産工場やライブイベントホールの建設も行っており、このような投資案件にもスピーディに対応できる状態としておきたいと思います。
　バランスシート戦略としては、充実した自己資本を確保するとともに、資本効率との両立をはかっています。政策保有株式については、取締役会で年1回、事業戦略遂行上の効果に加え資本コストを意識した様々な指標をもとに継続保有の是非を検証しており、着実に削減を進める一方、IP軸戦略推進に必要な株式保有は継続しています。当期は、東映アニメーション（株）の株式につき、同社の売出しに参加したことにより一部売却を実施しました。
　株主還元においては、長期安定配当の維持とともに資本コストを意識し、安定的な配当額であるDOE（純資産配当率）2%をベースに、総還元性向50%以上を目指す基本方針を採用しています。これに基づき、当期の年間配当金は1株当たり60円（ベース配当20円、業績連動配当40円）、DOEは5.8%となりました。また、172億円の自己株式の取得を実施した結果、総還元性向は55.7%となりました。引き続き、株価や手元資金の状況などを総合的に勘案し、適切な還元を実施していきます。

システムと人の両面でのセキュリティ対策

　情報セキュリティについては、2022年の不正アクセス事案の教訓を踏まえ、①システム上の対策、②ヒューマンエラー防止の両側面から、グループ全体で取り組みを進めています。①については、各社のセキュリティレベルを一定水準に標準化するとともに、事案発生時に被害の深刻度を直ちに把握できるよう、保有する情報の棚卸し・整理を進めています。②については、初動対応を分かりやすく整理し、社内啓発活動を行っているほか、グループ各社CISOを対象に情報共有の場を定期的に設け責任者の意識の統一をはかっています。

次期中期計画への橋渡し

　進行中の2025年3月期は、売上高1兆800億円、営業利益1,150億円と、増収増益を見込んでいます（2024年5月公表数値）。中期計画策定時の最終年度目標をやや下回る数値ですが、少しでも上積みし、中期計画目標の達成に最後までこだわっていきたいと思います。また、2025年3月期は次期中期計画への橋渡しとなる1年です。具体的な戦略・施策の立案や必要な体制整備など、将来にわたるグループ発展の土台づくりを進め、株主の皆様のご期待に応えてまいります。