

スタジオカラーとサンライズによる初の共同制作
私が本部長を務めるガンダム事業本部は、これまではIP事業本部内の一事業部でしたが、「ガンダムシリーズ」のグローバル展開強化とともに、より長期にわたる価値拡大をはかることを目的に、2025年4月に本部体制として新たに組成しました。
ガンダム事業本部の最大のミッションは、「ガンダムシリーズ」の映像作品をゼロからつくり上げることです。最新作「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(以下、ジークアクス)」は、「機動戦士ガンダム 水星の魔女(以下、水星の魔女)」から2年7カ月振りのTVシリーズとして、2025年4月よりスタートしました。国内で全12話をTV放送するとともに、海外では240以上の国や地域(日本およびベトナム除く)に向けてインターネット配信を実施しています。
ジークアクスがファンにとって大きな驚きとなったのは、本作が「エヴァンゲリオン」シリーズを手掛けるスタジオカラーと「ガンダムシリーズ」を手掛けるサンライズ((株)バンダイナムコフィルムワークスの作品ブランド)が共同で制作する新たな「ガンダムシリーズ」であることです。これまでの「ガンダムシリーズ」映像作品は、共同制作であってもサンライズが一貫性を保って制作していました。同様に、スタジオカラーにおいても、監督のみが他作品に関わることがあっても、監督と複数のクリエイターやスタジオがチームとして参加するケースは珍しく、両社にとってまさに大きな挑戦となりました。
スタジオカラーとの共同制作最大の目的は、新たな「ガンダムシリーズ」をつくることです。もちろん、これまで通り自社IPとしてサンライズが一貫性を保ちながらつくることも理想ではあります。しかしながら、46年の歴史を持つガンダムだからこそ、時にはこれまでとは異なる強い刺激を与えることで、新たな表現や見え方が生まれるとも考えました。ファンの強い想いに支えられるIPを生み出した制作会社同士が組むことで、大きな相乗効果が発揮され、新たなガンダムの姿を表現することができたと思います。また、サンライズとしても、スタジオカラーならではの創造性やファン視点から多くの経験や刺激を得ることができました。この刺激が、もともとロボットを題材としたシリーズアニメーション制作を行うことができる、世界を見渡しても稀なサンライズとして、今後ガンダムがどうあるべきかを改めて考えるきっかけになり、新しいガンダムを創造するモチベーションにつながっています。
劇場先行版を公開する、新たなプロモーション戦略
他社を含めて、 他社を含めて、数多くのアニメ作品があふれる中、TV放送向けのアニメとして、いかに効果的な形で視聴者にお届けするかは常に課題です。本作の展開にあたっては、TVシリーズ放送に先駆けて一部の話数を再構築し、劇場先行版として「機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-」を2025年1月に公開しました。
これはTV放送に先駆けたプロモーションの起点として、TV放送終了までを見据え、話題を長期に持続させる取り組みの1つでもありました。プロモーション効果の最大化に向け、情報の出し方やタイミングを綿密にコントロールし、広く、そして深く作品をファンに向けて印象付けることができたと捉えています。
ジークアクスは、グローバル展開においても先述した通り23言語対応で全世界同時(一部地域を除く)にインターネット配信を実施しました。2022年の水星の魔女においても配信による世界展開をしており、ジークアクスではさらに拡大した形です。映像配信を通じて、ガンダムに触れたことのなかった海外ファンの認知度も着実に高まっています。今後は、各地域の特性に合わせたプロモーション手法による情報発信戦略を設計し、さらなる認知拡大をはかっていきます。
これまでのファンを起点に、新たなファン層を巻き込む
「ガンダムシリーズ」は長い歴史故に、初めてのファンにはどこから触れるべきか分からないという声もあり、近年の「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」や水星の魔女といった、新たな切り口の作品を通じて新規ファンの開拓をはかってきました。ジークアクスでも、同様の位置付けで、ガンダムの原点とも言える宇宙世紀の物語を若い人たちにも届けたい、という強い想いで挑戦してきました。
中でも特徴的だったのは、スタジオカラーとの共同制作という大きな話題性も含め、SNSを通じてファン同士が作品を同時視聴し、考察を交わしながら盛り上がる構図が生まれたことです。一方で、ファーストガンダム世代を中心にこれまで支えてくれているコアなガンダムファンからの反響が、想定以上に大きかったことも特徴的でした。物語の性質上、予想はしていましたが、序盤では新規ファンの声を覆い隠すほど、コアファンの心に深く刺さったようです。ただ、こうしたコアファンの熱量が周囲の関心を引き付け、作品に対する新規ファンの熱量を一層高める形となりました。ジークアクスの世界観は、これまでの日本のアニメ文化や長年続いてきた「ガンダムシリーズ」の積み重ねの上に成立する作品として、全体としてはコアファン、新規ファン双方にご満足いただける作品として世に送り出すことができたと捉えています。
さらなるグローバル展開で、認知度を向上
ガンダムの映像戦略としては、主にTVシリーズは新規ファン向け、劇場作品などはコアファン向けという2軸で展開しており、そのバランスの中で、コアファンが新規ファンを温かく迎え入れる文化も形成され、全体の成熟度が高まっていることを実感しています。
これからの目玉となるのは、米国の映画会社LEGENDARYと共同制作するハリウッド実写版映画「GUNDAM(仮称)」です。
この作品は、アニメとは異なる視点からガンダムを世界へと広げる挑戦でもあり、特に欧米地域でのさらなる認知度向上の起爆剤としたいと思います。
今後は日本発のガンダムだけでなく、海外から発信されるガンダム作品の可能性も模索していきます。2025年4月に設立したBandai Namco Filmworks America, LLCは、ガンダムをはじめとしたIPを戦略的に拡大するための拠点として、アメリカからの発信を担う機能を持ち、将来的には現地の制作プロダクションやクリエイターとともに海外発となるガンダムの実現も視野に入れて活動する計画です。
50周年への決意
ガンダムは長きにわたってファンとともに歩むことで育成されてきたIPです。今後はファンとの輪をさらに広げることを重要なテーマとしています。来るべき50周年は、世代や国境を越えてガンダムへの認知が拡大した状態で迎えたいと考えています。ガンダムの歴史は、常に新しいことへの挑戦です。私自身、守りの姿勢ではなく、攻めの姿勢で未来を切り拓き、挑戦を恐れず、ガンダムというIPをより大きく、より自由に発展させ、IPの可能性を広げていきます。
私にとってのパーパス
パーパスは、ファンと楽しさを分かち合いながら、未来へつなげていくことの重要性を示しています。ジークアクスの取り組みはまさにその姿勢を体現しています。ファンとともに楽しみ、寄せられた反響を作品に反映させながら進化していくという、双方向の関係性を大切にする姿勢が色濃く表れています。ファンとともに作り、未来へつなげていくことこそ、ガンダムがこれからも広がり続けるために必要な在り方だと考えています。



